大企業の利益を擁護し労働者の権利侵害を容認する不当判決に断固抗議する
― 日本IBM・会社分割事件 東京高裁判決について -
(1)2008年6月26日、東京高等裁判所第19民事部において、日本IBM会社分割裁判(2007年6月12日控訴)の判決が言い渡された。判決は、大企業のリストラを無条件に肯定した横浜地裁の判決をそのまま維持する不当なものであり、断固抗議する。
(2)本件は、2002年12月、日本IBMのハードディスク部門が旧商法に定められた「会社分割法制」にもとづき分割されたことにともない、日本IBMが同部門に所属する従業員およそ800名との労働契約を本人の同意なく分割先の会社に承継(移籍)させたことが不当であるとしてその無効と日本IBM社員としての地位確認を求めたものである。
(3)本件会社分割の背景には同年2月に発表された米IBMから日立製作所へのハードディスク部門売却があった。上記の新設会社の株は、分割後わずか6日で日立製作所に売却され、会社の名称も「日立GST」となった。同部門の従業員は、本人の意思とは関係なく、突然、IBM社員から日立社員へと雇主が変わったのである。これが職業選択の自由を保障した憲法22条や本人の同意のない労働契約の第三者への譲渡を禁じた民法625条に反することは明らかである。
(4)東京高裁判決は「5条協議義務違反があった場合には、一定の要件の下に、労働契約の承継に異議のある労働者について、分割会社との間で労働契約の承継を争うことができるようにして個別に解決が図られるべきものである」としつつも、それは「当該労働者が会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を越える著しい不利益を被ることとなる場合に限る」と述べた。これでは企業再編において労働者の権利が著しく侵害されても甘受しろと言っているに等しい。
(5)日立GSTは、誕生以来赤字が続き5年間の累計赤字は1200億円に達し、世界的規模でリストラの嵐が吹き荒れている。本件会社分割が「泥舟」分割であるというわたしたちの不安はまさに的中した。いま、日立GSTでは、企業の将来不安、雇用不安が広がっている。わたしたちは、日本IBMと日立製作所に対し、本件会社分割の責任を徹底して追求するとともに、職場の仲間の要求を総結集し、雇用とくらしをまもるために全力をあげる。
(6)日本社会はいま「貧困と格差」が大きな社会問題となっている。その背景には政府・財界による企業・労働法制の規制緩和政策がある。会社分割法制は、まさにその代表格である。昨今、行過ぎた規制緩和に国民的な批判が強まり、労働者派遣法などの労働法制やさまざまな規制緩和政策が見直されようとしている。こうした時代の潮流を見れば、高裁判決がいかに時代遅れであるか明らかである。
(7)わたしたちは、この裁判闘争をつうじ、こうした企業再編やM&Aを告発し、労働者の権利保護を訴えてきた。わたしたちは、この不当判決をのりこえ、この間、改悪され続けてきた企業法制や労働法制を見直し、規制緩和から労働者の権利保護へと政治の転換をめざして闘いつづける決意である。
2008年6月26日
日本IBM会社分割事件原告団
同 弁護団
日本IBM会社分割争議支援共闘会議
全日本金属情報機器労働組合
同 日本IBM支部