日本IBM会社分割事件・最高裁判決についての声明

       日本IBM会社分割事件・最高裁判決についての声明

(1)最高裁判所第二小法廷は、2010年7月12日、日本IBM会社分割・上告受理申立事件につき、上告人らの請求を棄却する不当判決を下した。本件は、2002年12月、日本IBM(以下、会社という)が、当時不採算部門であったハードディスク部門を「会社分割法制」(旧商法)にもとづき分割して新会社を設立した後、日立に株式譲渡したことにともない、同部門に所属する労働者の労働契約を本人の同意なく分割先の会社に承継させた(すなわち、転籍させた)ことに対して、労働者がその労働契約承継を無効として日本IBM社員としての地位確認と損害賠償を求めたものである。

(2)最高裁は、“商法附則第5条にもとづく当該労働者との個別協議が全く行われなかったとき、あるいは、行われた場合でも、説明や協議の内容が著しく不十分なため5条協議の趣旨に反することが明らかな場合には、労働者は労働契約承継の効力を争うことができるという初の判断を示した。これは、“労働者は会社分割により通常生じる不利益を甘受すべき”であり、5条協議義務違反となるのは、“労働者が会社分割により著しい不利益を被る場合”などに限定されるとした東京高裁判決をさらに一歩ひろげたものである。とりわけ、最高裁判決が、商法附則5条1項の規定について“労働契約の承継の如何が労働者の地位に重大な変更をもたらし得ることから、労働者との協議を行わせ、当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする趣旨と解される”としたことは、最高裁が、商法の定めに労働者保護の趣旨を認めた解釈をしたものとして注目される。

(3)ところが、最高裁判決は、上記の判断基準に照らして本件を判断するに際して、形だけで内容のない会社のやり方を是認し、会社のとった7条措置や5条協議は、説明・内容が不十分で法が求めた趣旨に反するとまでは言えないとした。そればかりか、最高裁は、“あらたに設立された会社の経営見通しなどについて当該労働者らが求めた形での回答に応じなかったのは会社の将来の経営判断に係る事情等であるから”だとか、“(当該労働者の)在籍出向等の要求に応じなかったのは、本件会社分割の目的が合弁事業実施の一環であったから”とした。これらは、大企業の都合を優先しており、あたかもその代弁者かと見間違うかのようである。

(4)会社分割法制(会社法・労働契約承継法)が施行されてから10年が経ち、国会審議のなかで懸念をされた「泥船分割」が実際にひろがりつつある。こうした「泥船分割」から労働者の雇用と権利をまもるためには、今回の最高裁判決を土台に5条協議・7条措置に実質的な協議を義務付けていくとともに、EU諸国ですでに実施されているように、設立会社への労働契約承継拒否権を認める方向で「会社分割法制(会社法・労働契約承継法)」改正を求めていかなければならない。

(5)わたしたちは、この裁判闘争が転籍先での労働条件切り下げ攻撃から当該労働者の権利をまもってきたとともに、新自由主義的経済政策のもとで横行した企業再編やM&Aから労働者の権利をまもる必要性を社会に告発し世論をひろげる力となったと確信している。2003年の横浜地裁提訴から7年にわたって支援をしていただいた全国の労働者・労働組合の仲間のみなさんに心から御礼を申し上げると同時に、引き続き、この間、改悪され続けてきた企業法制や労働法制を見直し、労働者の権利保護へと政治の抜本的な転換をめざして闘う決意である。

2010年7月12日

                            日本IBM会社分割事件原告団
                                  同      弁護団
                        日本IBM会社分割争議支援共闘会議
                        全日本金属情報機器労働組合
                                  同  日本IBM支部

2 thoughts on “日本IBM会社分割事件・最高裁判決についての声明

  1. 元愛美笑む

    長いこと本当にお疲れさまでした。まったく仕事をしない最高裁にああ言わせたのは意義深い第一歩だと前向きにとらえたいです。わたしをはじめ、同じく分割法でひどい目をみた元従業員たちにとっても恨みを少しでも晴らしていただく結果だったと思います。ここまでねばっていただき本当にありがとうございました。

  2. 梅雨明け

    そもそも人間ごと売り飛ばすことを認めたこんな法律が、労働者の保護などというのは、おこがましいと思わないのだろうか。企業の保護でしかない。
    人間不在の社会をこれ以上作らないよう、大きい声も、小さい声もいつでもあげていかなければいけないと思う。原告団の皆さんの奮闘に感謝します。お疲れ様でした。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。