会社は就業規則を変更し、今年から自由に社員の給与をカットできるようにし、年俸制ではないバンド7以下の社員に対しても7月給与調整で給与の5%減額を強行しました。
この「減給」処分は法的にはどんな扱いになるのでしょうか。
▼労働基準法第91条 制裁規定の制限
一つの考え方は、当該社員に対する「制裁」である、というものです。
ところが、就業規則における制裁規定は、労働基準法第91条の制約を受けます。
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」
そして、就業規則には既に第10章表彰および懲戒に以下のように規定されています。
「減給 始末書を提出させ、減給する。ただし、1回の減給額が、平均賃金の1日分の半額を超え、また懲戒該当行為が数事案発生しても減給合計額が一給与計算期間の給与総額の10分の1を超えることはない。」
これは、労働基準法第91条に沿うことを意図したものだと言えそうです。
ところが、「制裁」にあたるのか疑問ををコンフィデンシャリースピーキングに投じたところ、コーディネーターは受理を拒否してきました。
▼就業規則の不利益変更制限
もう一つの考え方は、就業規則の変更による「労働条件の変更」(不利益変更)である、というものです。
●就業規則の変更(労働契約法10条)
(1)就業規則を変更することによって、労働条件を変更することもできる。
この場合、
- ア
- 変更後の就業規則を労働者に周知させること。
- イ
- 変更した就業規則の内容が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更にかかる事情に照らして合理的であることの要件を満たすことが必要である。
IBMの就業規則変更は労働契約法10条に照らして適法と言えるでしょうか。条文の「イ」に照らして見てみましょう。
- ①
- 今年度の減給実施額が年収のほぼ5%と非常に大きい(労働者の受ける不利益の程度)、
- ②
- 会社は大幅な利益を出しており、経営状態は客観的に良好である(労働条件の変更の必要性)、
- ③
- 日本の労働慣行に著しく反している(変更後の就業規則の内容の相当性)、
- ④
- 労働組合が一貫して大反対している(労働組合等との交渉の状況)
以上の条件から、日本IBMの就業規則不利益変更は、労働契約法10条に著しく反していると言わざるを得ません。
▼減給処分を受けた方は不服申し立てを
会社から一方的に労働条件の不利益変更をされても、「労働者の合意」があれば違法ではなくなってしまいます。
減給処分を受けた人は、合意していないことを証拠に残すために、不服申し立てを文書に残る形で行うことをお勧めします。