裁量労働制は一日8時間労働の原則を崩すため、導入するには一定の要件が必要です。ところが法律要件満たさない裁量労働制が導入され、サービス残業の温床となる問題が発生しています。そのような中、7月下旬に、中央労働基準監督署(以下労基署)が、日本IBMの裁量労働制の適用は不適切であるとの容疑で、本社・STH部門に立ち入り、アンケート調査を行いました。
法律では、裁量労働制について「業務の性質上その遂行の手段や時間の配分などに関して使用者が具体的な指示せず実際の労働時間数とは係りなく、労使の合意で定めた労働時間を働いたものとみなす制度」と定義しています。この定義にはずれる業務は、裁量労働制の対象にはなりません。
それに対してSTHの業務は依頼者(提案チーム)と連絡をとりながら進める必要があり、業務の遂行、時間配分などについて裁量がなく、到底、裁量労働制の適用対象とならないはずです。就業規則でも、「適用社員は原則として業務の遂行に裁量を有し、会社は業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し適用社員に対し具体的な指示をしないこと」となっています。(就業規則 裁量勤務の原則第2条)
そのため、STH所属の組合員2名が労基署に相談したところ、労基署は「STH部門の業務そのものが裁量労働制になじまないのではないか?」と疑問を持ち、7月下旬にアンケート実施となったものです。
この問題は、STH部門に限らず、日本IBMの多くの社員が適用されている裁量労働制について、会社が法に基づいて適用しているかどうかが問われている問題です。
◇過労死うつ病を引き起こす懸念◇
本人が裁量労働制の適用を受けている場合、基準に照らして妥当なのか検証が必要です。なぜ問題視するのかというと、制度の内容も知らず、自覚のない社員が少なくない中で、プロジェクトなどで残業代経費を削減するために、裁量の余地のない勤務の社員に裁量労働制を適用しているケースが目立ち、時間管理もいい加減になっていて、その結果、長時間労働に伴う過労死やう病を引き起こすなど由々しき問題となっているからです。
適用されている社員は、自身が適用される条件を満たしているかどうかを確認するとともに、自身の勤務時間(始業・終業時間)をe-Attendanceに必ず入力する必要があります。(あわせて日記やメモも有効です)
このことは、時間外勤務手当(深夜・休日勤務手当)を請求する場合だけでなく、長時間労働による過労死やうつ病になった場合の労災申請時にも有効です。
会社は、毎年、社員にコンプライアンスに関する教育を徹底しているにもかかわらず、自らが、今回のケースについて労基署に疑義をもたれているわけですから、全社に展開して、労働法の遵守を徹底させる必要があるはずです。
日本IBMでは、労働基準法(第38条の3)の専門業務型を採用しており、「裁量勤務制度」と称しています。
専門的業務に従事する労働者については、仕事の仕方や時間の配分等を使用者が具体的に指示するのではなく、労働者本人の裁量に任せなければなりません。