勧奨容認し原告切捨て退職強要裁判で不当判決

 昨年末も押し迫った12月28日、東京地裁において、日本IBM退職強要・人権侵害裁判で原告らの請求を棄却する不当判決が下されました。
 「リーマン・ショックにより事業環境に関する将来見通しが更に不透明になった」中、2008年度に前年とほぼ同水準の約1000億円の純利益をあげていた会社には退職勧奨を許す一方、社員には退職勧奨を甘受し退職することになる結果も甘受せよと言っていることになります。

◆企業ぐるみの首切り◆

状況は極めて明白です。会社が、企業ぐるみで行った1500人にも及ぶ首切り事件です。その点を、原告も被告も裁判官も否定はしません。判決文にも、退職予定数を1300人と設定したが、過去の経験からその2倍半から3倍の人数を対象に退職勧奨すれば予定数に達するだろうと見込んだことや、この予定数の達成は、部門長やライン専門職のアカウンタビリティ=結果責任とされたこと等が明記されています。
 結果として会社はこの機会に1500人に及ぶ社員の首を切ることに成功しました。候補者に個別面談して「自発的に退職する」よう圧力をかけた結果です。
 これは、事実上の指名解雇と言ってもいい退職強要です。これに憤った4人の原告が提訴し、このような不当な首切りに歯止めをかける機会を提示したものです。

◆会社主張を全面採用◆

 判決は、「退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても、それをもって、被告は、直ちに、退職勧奨のための説明ないし説得活動を終了しなければならないものではない」等の基準をたて、会社の主張及び会社側証人の証言を全面的に採用して会社の行った面談等は社会通念上逸脱した態様で行われたものではないと判断する一方、原告らの証言は切り捨てました。

◆不可解な推論や判断◆

 あらためて面談の状況を想定して振り返ってみましょう。候補者たちは考えてもいなかった退職をおいそれとは「希望」するわけにはいかない一方、勧奨する側は予定数達成に結果責任を持てと言われていますから退職するように圧力をかけざるを得ません。そのために判決文に出てくるように「上司の言葉遣いや態度次第では部下にとって圧迫と受け取られかねな」かったり、「戦力外と告知された社員が衝撃を受けたり、不快感や苛立ちを感じたりして精神的に平静でいられな」かったりしたでしょう。
 このような場で、この判決文に何度も出てくる「被告Aが、単に原告Bを激昂させ、感情的な反発を招く危険のある発言をあえてするとは考え難い」というような推論が成り立ち、それらを積み重ねた判断が正しいと本当に裁判官はお考えなのでしょうか?
 退職した人たちも原告らも自身の身を守るべく抗戦し会社側と行き違ったとしても自然であり、一方的に棄却されるべきものではないでしょう。その個々の場合の振舞いの当否を問うよりは、そのような場面を作り出すことが根本的に問題にされるべきでしょう。

◆判決を非公開に?◆

 会社は判決や証拠の一部を非公開にするよう裁判所に申立てました。そのような求めは、自身の側の不都合を自覚しているからではないか、とするのが社会通念ではないでしょうか。仮に読者がそれらに目を通す機会に恵まれたなら是非とも観賞していただきたい。現在の社会の深層を垣間見ることができるでしょうから。

◆控訴審へ続くたたかい◆

 退職勧奨を受けた日々から困難なたたかいを続ける中で、原告らはたくましくなってきています。その雰囲気から裁判官は錯覚されたかもしれませんが、原告らはあくまでも弱い立場の労働者です。
 彼らが勇気を奮って企業の理不尽な人員削減の手法がはびこるのをとめるべく提供した機会を、裁判切りすてました。
 日本で人事の毒見役をしてかつての名声を失ったこの会社が準退職強要をはびこらせるのを、裁判所が助長したことになるかもしれません。そうなることを防ぐべくたたかいは控訴審へ続きます。

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