作年10月31日に東京地裁で日本航空(JAL)の短期契約客室乗務員(Aさん)の雇止め裁判の判決が言い渡されました。判決で当時の上司の退職勧奨が違法と認定され、JALと上司に慰謝料20万円ずつ(合計40万円)の支払いが命じられました。
IBM退職強要・人権侵害裁判では、執拗な退職勧奨が違法とはいえないと認定されており、対照的な判決内容となりました。
◆上司の執拗な退職強要◆
このJALの雇止め裁判はマスコミで大きく話題になっている146人の正社員の整理解雇裁判とは別の裁判です。しかし根っこは同じで、経営再建を迫られたJALが再建努力をアピールするために必要のない人員削減を強行し、正社員は整理解雇、短期契約社員(1年契約)は雇止めにしたというものです。
Aさんは雇止め通知を受ける前に、上司から執拗に退職強要も受けていました。そこで地位確認(職場復帰)と退職強要による精神的苦痛に対する慰謝料請求を求めて提訴したものです。
◆退職勧奨 違法性認定◆
判決そのものは「Aさんの職場復帰を認めない」という不当なものでした。しかし退職勧奨については違法性を認めました。Aさんの上司が繰返し、「いつまでしがみつくつもりなのか」「辞めていただくのが筋」「懲戒免職の方がいいのか」と、Aさんに執拗に自主退職を促していた点について、「社会通念上認められる範囲を越えた違法な退職勧奨」と違法性を認定しました。またJALの使用者責任も認め、Aさんの上司とJALに対して慰謝料の支払いを命じました。
◆IBM裁判では退職勧奨容認◆
この判決の退職勧奨に対する判断は「退職勧奨を断っている社員に対して、退職勧奨を繰返し行うことは違法である」という、これまでの判例を踏襲した極めて妥当なものでした。
それに対して、IBM退職強要・人権侵害裁判の判決は、退職勧奨が違法になるためのハードルを異様に高く設定しています。判決文では社員が退職勧奨を断っても「退職に応じることの利益・不利益を深く理解させるため」あるいは「真摯に検討したか確認し」、更に「再検討や翻意を促すため」、退職勧奨を繰返すことを容認しています。またその結果、社員が「不快感や苛立ち等を感じたりして精神的に平静でいられないことがあったとしても」違法ではないと、精神的苦痛を与えても違法ではないと論じた、極めて不当なものです。
◆偏見に満ちた裁判官の会社側に偏った判決◆
日本IBMの退職強要の方がJALよりも酷かったことは言うまでもありません。「所属長の退職強要を拒絶すると、上長からサードラインまで出てきて、複数人から退職を強要される」「最後は弁護士資格を持った法務担当取締役執行役員が登場し、『48時間以内に辞表を出さないと普通解雇する』と脅迫される」「『このままだと低評価を受け、賞与は減額され、同時に降格対象になりうる』という脅迫メールと共に、再就職斡旋会社の紹介メールをセットで送りつけられる」などの違法行為が「会社ぐるみ」で行われました。
また「面談中に社員の目の前でペットボトルを振回し、威圧的に足を踏み鳴らされる」などの暴力行為を受けた原告もいました。さらに投げかけられる言葉も「あなたに与える仕事はない」「この会社にあなたの居場所はない」「あなたは会社にいらない(人だ)」などと「退職」と言う言葉を巧妙に使わずに、原告の人間性を否定する言葉を繰返しして退職に追い込んでいます。しかし担当の裁判官は、会社の言い分を鵜呑みにして、これらを事実とは認定せず、違法性を否定しました。
このようにIBM退職強要・人権侵害裁判の判決は他の退職強要裁判と比べても、特異な裁判官による異様に会社側に偏った不当なものでした。この不当な判決を覆すべく、組合と原告4人は1月10日に東京高裁に控訴しました。会社の退職強要攻撃を跳ね返すためにも、IBM退職強要・人権侵害裁判へのご支援をよろしくお願いします。
また今後、退職強要が発生した場合は、JAL裁判と同様、退職強要に関与したライン自身も提訴の対象となりうることを追記しておきます。