減額の根拠に裁判官も疑問
-賃金減額裁判で証人尋問-
4月16日、東京地方裁判所で賃金減額裁判の証人尋問が行われました。証人尋問では、原告の組合側証人2名、被告の会社側証人2名、そして原告本人2名が順に証言を行いました。
違法な就業規則改訂
この裁判で争われている賃金減額は、2010年の改訂で就業規則・格付規定に追加された「業績が職務内容に対して著しく低いと判断された場合は、本給、賞与基準額、本俸および定期俸基準額を減額することがある」という条項を根拠としています。
2005年10月3日「人事改革」が発表された当時の門池二次雄委員長は、発表直後の就業規則改定では「定期昇給」を「給与調整」に変更しただけで、減額は実行できなかったことを、証拠をもとに証言しました。
2010年の就業規則改訂当時の渡辺裕組合書記長は、この改訂の中核である給与の仕組みを変更するという重大発表を、会社は労使慣行を無視して団交を開かず、前年末に一方的に通知してきたこと、またこの就業規則改訂のための従業員代表選挙では、会社側は改訂内容に賃金減額が含まれることを社員に周知せず、論点を隠したまま選挙を実施したこと、そのような形で行われた従業員代表選挙の有効性に疑問があることを証言しました。
一人目の会社側証人として証言した当時の小玉道雄労務担当は、これらの就業規則改訂はPay for Performanceの実現のために必要な措置であるという主張を繰り返すのみであり、なんら有効な証言を行うことができませんでした。
裁判官の質問に回答できず
二人目の会社側証人として証言に立った川合哲也給与担当に対しては、裁判官自身が立て続けに質問を投げかけました。
「一定の大きさのパイ、つまり給与原資を配分するという前提で、一方で給与の減額を行うならば昇給についても基準があるはずではないのか」
「減額幅はPBC評価4の場合15%といった明確な基準があるのに、昇給に対してはそういった基準はないのか」
「減額の15%という数字はどのようにして決められたのか。またその際他の労働法規との横並びの検討は行わなかったのか」
「15%の賃金減額が仮に3回行われたら、その人はどうなるか」
「PBCが相対評価であるということは、目標を達成していても相対的に低評価となり、賃金減額されることはありうるのか」
これらの質問に対して、川合担当はどれ一つとしてまともに答えることができませんでした。
労働基準法には、懲戒として減給を行う場合は給与の10%を超えてはいけないという規定があります。IBMの賃金減額はその規定すら超えるものであり、裁判官はその点を指摘したのです。
底なしの減額とRA
原告も証言を行いました。一人目の原告はバンド8の社員であり、バンド7以下での賃金減額が行われる以前の2009年から全部で4回の賃金減額を実施されています。その結果、リファレンスサラリーが500万円以上も減ってしまったという減額の苛酷さを訴えました。
二人目の原告は、2012年のPBC評価4のため、本給を5万円以上減額されました。翌2013年のPBC評価は2+であったのにもかかわらず、TCRによる昇給は9600円、つまり減額幅の五分の一以下にすぎなかったことを証言しました。
ひとたび減額されると影響は退職まで続き、その後、高い評価を得ても挽回することは事実上不可能です。会社のいうPay for Performanceというのはまやかしに過ぎません。
また、賃金減額が発表された2013年5月には同時に大規模なR A(リソース・アクション)が行われ、多くの社員が会社を去ったこと、賃金減額が、実際には社員を追い出すための手段として使われたことも証言しました。
裁判の今後は
今回の証人尋問によって、組合の主張の正しさがより明らかになりました。裁判は次回の口頭弁論で結審し、秋には判決が出る見通しです。
賃金減額裁判とは この裁判は、日本IBMがPBC評価3あるいは4の社員に対して、リファレンスサラリーの10%~15%にも及ぶ減給(賃金減額)を行ったことに対し、その違法性を訴え、賃金減額を無効として減額分の支払いを求めるもので、9人の組合員が原告として会社を提訴してたたかっています。 2013年9月の提訴以来10回の法廷が開かれ、会社の就業規則変更には合理性がないこと、さらに不当労働行為であることを原告は主張してきました。 |