労使合意無視は労働法違反で無効

9月9日の賃金減額裁判結審時における原告代理人、岡田弁護士の意見陳述書(抜粋)を掲載します。

意見陳述書

2015(平成27)年9月9日

東京地方裁判所民事第11部に係 御中

1 異常極まりない賃金減額措置
(1)不利益の甚大さ
 まず、理屈の前に、この不利益の甚大さという事実をみていただきたい。

2012年(平成24年)、2013年(平成25年)減給

原告名 措置年 減額率(%) 原告名 措置年 減額率(%)
A 2013 15.00 F 2013 9.99
B 2013 15.00 G 2013 14.99
C 2013 9.98 H 2013 14.98
D 2013 10.00 I 2013 14.99
E 2013 14.98 I 2012 9.99

この減額分には時間外労働分は含まれておらず、また減額が是正されない限りこの不利益は将来も継続していく性格のものである。

(2)労働基準法91条の趣旨に反する減額…これをどんな手続でやったのか
 ①2008(平成20)年の原告Iの例
 減額の根拠となる規定は存しない。
 ②2012(平成24)、2013(平成25)年の本件減額措置
 2010(平成22)年3月1日、「減額できる」旨を明記した就業規則(具体的には「格付規程」)の改定が行われ、バンド7以下の組合員に対する減額措置が始まり、2014(平成26)年までこれが毎年続く。2013(平成27)年及び2014(平成26)年の減額にあたっては「PBC評価3以下の者は全て自動的に減額される」とした。PBC評価は相対評価であるから、これが継続されるとなると、毎年必ず一定割合で減額される社員が出ることになる。こんな理不尽な制度はない。
 また、会社はこの理不尽な制度の導入にあたって、労働者・労働組合にまともな説明もしていない。

2 使用者のフリーハンドでの賃金減額を許してはならない
(1)賃金は、労働条件の最重要課題である。労働者はこれを自らと家族の生活の糧としている。なるが故に労働基準法1条1項は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定め、2条1項では「賃金の決定も、労働者と使用者が対等の立場で決定すべきもの」としているのである。
 かかる原則から「いったん労働契約で確定した賃金額の変更には労使間の同意が不可欠のもの」とされている。
 労働契約法9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」としている。

(2)これの例外を定めたのが同10条である。「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としている。
 このように、労働基準法及び労働契約法の法意は「労働条件の変更には労使の合意が原則、万やむを得ない場合に限り、使用者による労働条件の不利益変更が有効となる」というものであって、有効とする場合のハードルは極めて高い。本件減額措置を認めることは、使用者にフリーハンドでの減額を認めることになり、断じて許されない。

3 本件減額措置は、労働契約法10条に違反し無効である
(1)不利益の甚大さについては前述した。
(2)変更の必要性があるとの主張立証は尽くされていない。
(3)変更内容に相当性がない。
(4)会社は労働組合との交渉を誠実に行っていない。

 これらについては、最終準備書面16頁以下に述べたとおりである。

4 減額の理由とされているPBC評価について
(1)相対評価の問題性
(2)恣意的評価の問題性
(1)(2)について原告Gの例をみれば明らか
(3)減額と昇給(増額)の関係5 減額は労働者を職場から排除するための一里塚

 結局は、減額によって労働者がやる気をなくし、嫌気を覚え、自主退職せざるを得ない状況に追い込み、自主退職に応じない場合には解雇していくことにその狙いがあるということに帰着せざるを得ない。減額の翌年はPBC評価で3ランクアップして2+になる原告Gにさえ、減額の発表があった当日、所属長は「退職金上乗せでの退職プログラムがあるけれど、興味はないか、辞める気はないか」と聞いているのである。
 賃金減額は正に退職強要、自主退職・解雇への一里塚である。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。