【本の紹介】さくらの雲 -ロックアウト解雇が題材の小説-

 

【本の紹介】 さくらの雲

  -ロックアウト解雇が題材の小説-

 

 日本IBMのロックアウト解雇・賃金減額事件を題材にした小説が話題になっています。社会派小説で、現代の働く女性の生き方を問う長編傑作となっています。さっそく内容をご紹介します。

外資系の会社で働く普通の女性が主人公

 主人公のさくらさんは外資系のITサービス会社「東光クレジメント」で働くITエンジニアです。チームリーダーとして難しいプロジェクトも成功に導き、自他共に認めるスーパーウーマンとして活躍しています。
そして、さくらさんはプロジェクトで出会った頭が切れて清潔感のあるイケメンの素敵な男性とめぐりあい、結婚し、子供を産みます。

「くるみん認定」を取得している会社

 ところが、さくらさんが育児休暇をとり職場復帰後、子供の面倒をみるために短時間勤務を申請して働きはじめた頃から何やら雲行きが怪しくなり始めます。東光クレジメント社は厚労省の「くるみん認定」を取得しているのに、短時間勤務を申請すると所属長からは嫌味を言われます。しかし、さくらさんは子供の世話のために嫌味を我慢して制度を利用します。

追い出し部屋へ

 2008年のリーマンショック後、東光クレジメントに米国本社から外国人の社長が乗り込んできます。さくらさんが打ち込んでいたお客様プロジェクトが突然打ち切られると、なぜか「人材開発室」に異動を命じられます。人材開発室に行ってみると、そこは「仕事を探すことが仕事」のいわゆる追い出し部屋でした。毎日、公募されているプロジェクトを探しては面接に出向くのです。

5段階の相対的な成績評価で賃金減額

 人材開発室のマネジャーは短時間勤務のさくらさんに向かって、あなたは稼働率が低く会社に貢献していないので、5段階評価の成績の最下位だと言い放ちます。さくらさんは最低評価を理由に年収の15%も給料を下げられます。
 さくらさんは会社のやり方に疑問を持ち始めます。同じ人材開発室にいる人達はみな能力が無いわけではなく、たまたま介護や子育てなど個人ではどうにもならない事情を抱えているだけです。
 さくらさんは朝の出勤時に時々労働組合がチラシを配布して宣伝していたことを思い出し、労働組合に興味を持ち始めます。

ロックアウト解雇

 さくらさんが労働組合に入ろうかどうか逡巡しているある日、さくらさんの隣の席の人が終業時間30分前にマネジャーに「ちょっと」と言って呼ばれていきました。帰ってきたその人は「解雇されました」と青い顔で言い、段ボール箱に私物をまとめて出ていきます。
 ……はたして、さくらさんの運命はいったいどうなるのでしょうか。

解説

 JALを題材にした「沈まぬ太陽」と同様、社会派の長編小説です。
 もうひとつ、IBM産業スパイ事件の後日談を題材にした「雲を掴め」という小説も話題になりましたが、この「雲」は「坂の上の雲」から来ているそうです。「さくらの雲」にも同様の暗示がありそうです。
 「さくらの雲」は1人の普通の女性を通して描かれている分、誰にでも起こり得るストーリーがより一層真実味を帯びており、どんどん引き込まれていきます。
 さくらさんは当初、労働組合に偏見を持っていましたが、自分の思い込みが間違っていたことに徐々に気が付いていきます。
 今、日本IBMの労働組合に興味をお持ちの皆さんにとって、さくらさんの心の動きはとても参考になると思います。
 現代の働く人をとりまく社会情勢の理解や、ロックアウト解雇裁判原告の心情を理解する上でも、是非ともお読みいただきたい一冊です。

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さくらの雲
(民主文学館) 文庫
著者 最上 裕
出版社 光陽出版社
定価 税込千円
初版2016年8月5日

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