弁護士、労働組合が是正を強く要求
パワハラについて事業主に防止対策を義務付けた労働施策総合推進法の改正を受けて、現在、厚生労働省の労政審で、いわゆるパワハラ防止法の指針の策定・改定が議論されています。
しかし、11月20日に了承された指針は、パワハラ防止策となっていないばかりか、むしろパワハラの範囲を限定・矮小化し、会社にパワハラに当たらないという言い訳を許すことによって、かえってパワハラを助長しかねない内容となっています。
パワハラを初めて法律で定義
労働施策総合推進法・第30条の2において、パワハラが法律で初めて定義されました。
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めました。
この法律自体には、国や企業、労働者の責務について具体的な説明がありません。そこで、事業主の雇用管理上講ずべき措置義務の内容について定める指針の策定が労政審で議論されています。今回了承された指針は「パワハラにお墨付きを与えかねない」内容となっており、内外から批判が起こっています。
パワハラに該当する範囲を縮小
今回の指針では、パワハラについて、法の趣旨を軽視し、法律の文言を狭く解釈しています。
例えば、「優越的な関係を背景とした言動」の「優越的」の意味を、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性(がいぜんせい)が高い関係」とことさら狭く説明しています。これでは、パワハラ被害者に対し、抵抗とか拒絶できなかったのかと加害者の擁護に使われてしまいます。本来、職務上の地位や人間関係、専門知識など何らかの事由で優位性が認められれば十分なはずであり、それを背景としたハラスメントは防止される必要があります。
職場の意義を狭く説明
「職場」の意義について、「業務を遂行する場所」と狭く説明しています。例えば、懇親会の場などにおいてもハラスメントが行われているのは周知のことであり、これらのハラスメントも防止される必要があります。
パワハラに該当しない例は会社の弁解カタログ
指針では、6つの行為類型ごとにパワハラに「該当する例」と、企業側の強い意向で「該当しない例」も加えられています。しかし、パワハラに該当しない例を示す必要性は全くありません。これらは「使用者の弁解カタログ」と批判されています。企業側に恣意的解釈の余地を残すことになるからです。
例えば、「怪我をしかねない物を投げつけること」はパワハラに該当するとしていますが、それではまるで怪我をしない物であれば投げてもよいかのようです。
他にも、「自身の意に沿わない労働者を別室に隔離する」のはパワハラだが、「処分を受けた労働者に通常の業務に復帰させる前に別室で必要な研修を受けさせる」ことはパワハラに該当しないとしました。処分とは何を意味するのか、また研修期間も不明です。
参院の附帯決議を尊重
一方、参院で「労働者の主観」への配慮が附帯決議された件を受け、「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」ことは当初パワハラに当たらないとしていましたが、今回の指針では削除されました。
しかし、取引先や顧客等の第三者から受けるハラスメント、及び、取引先や就職活動中の学生、フリーランス等の社外の者に対するハラスメントへの配慮、性的指向・性自認に関するハラスメント及びアウティングへの配慮については、まだ不十分な対策しか示されていません。
ご意見を募集します
厚労省は指針へのパブリックコメント(公募意見)を募集した上で、年内に正式決定するとしています。全労連やJMITUは抜本的見直しを求める意見を集め、さらなる修正を迫ろうと呼びかけています。是非組合ホームページから投稿をお願いします。皆様のご意見をお待ちしています。