工学院大法人に改善命令
工学院大学法人の教職員に対して、日本IBMで行われているような不透明な賃金交渉や降格、賃下げが行われていた事件に関し、画期的な命令が東京都労働委員会から出ました。以下にその内容をお知らせします。
東京都労働委員会が命令
東京都労働委員会は2020年4月15日、工学院大学学園教職員組合連合(工学院大学教職員と付属中学・高校教職員の連合体)が申し立てた事件について、工学院大学法人が新教員人事制度導入による不利益の程度や降格制度導入の必要性、成績評価の基準や中高の初年度格付の基準などの説明において、具体的な根拠を示して十分な説明を行ったとはいえないとして、不誠実団交であると判断しました。
都労委は今後法人に対して誠実に団体交渉に応じることや不当労働行為を繰り返さないよう留意すると言明する文書を、新宿、八王子、付属中高の校舎内に掲示することを命令しました。
新人事評価制度を強行
2015年7月、法人は組合に対し、大学と付属校教員を対象にした人事評価制度を提案してきました。この制度の基本的な骨格は、
①教員を3つの等級に格付けし、最上位の等級以外は早い段階で賃金を頭打ちにする。
②3または4段階で各教員の人事評価を行い、最低の評価Cの場合は、定期昇給停止、一時金の減額(10%以上)。
③3年連続C評価を受けた場合は降格候補とする。
このように大幅な不利益変更をともなうものです。具体的な評価項目や基準は説明されず、評価の公平性・公正性はまったく担保されていません。
制度導入の必要性について法人は、「大学の生き残りのために必要」との説明に終始し、2016年8月に制度導入を強行しました。
資料非開示の理由なし
団交がいかに不誠実だったか、都労委の命令書には次のように書かれています。「組合が提示要求を行った資料には、新教員人事制度の必要性、合理性等に関する重要な資料が含まれていると考えられる」とし、「それにもかかわらず、法人は、組合の要求に対して、経営上の機密に関するものが含まれるから提出しないと回答した後、理由を示すことなく、経営上の機密に関するものを除いても一切示さない旨回答しており、このような法人の対応は、合理的な理由なく、経営戦略会議の資料を一切提示しないとの姿勢を示すものである」と法人の資料非提示の姿勢を批判しています。
不利益の根拠の説明なし
都労委は、「成績評価の結果がC評価であった場合、定期昇給は停止し、また、賞与は大学教授が標準額のマイナス20パーセントとなるなど、大きな不利益が生じる可能性がある」とし、更に「組合から新教員人事制度導入による不利益の程度を決定した理由について説明を求められた場合、法人は、その具体的根拠を説明する必要がある」としました。
組合は団交において、「20パーセントでなくてはいけない理由って何ですか」と説明を求めましたが、法人は、「20パーセントが一番合理的だと経営が判断した」や「20パーセントでも良いじゃないですか」などと回答するだけで、減額率を決定した具体的根拠を示していないことは問題であるとしました。
導入理由の説明不十分
組合が降格制度を導入する理由について、法人に説明を求めたところ、「非常に早く昇格してしまって暴走されては困る、非常に早く昇格する分だけ、その逆も有り得るというような制度設計にしている」旨説明しているが、内容は不確実で抽象的な危険性を示すのみであり、降格制度導入の必要性について十分な説明を行ったとはいえないと都労委は判断しました。
具体的説明が必要
都労委は「成績評価は、最も重要な労働条件である賃金に直結するものであり、成績評価の賃金への反映による不利益の程度は大きいから、組合から成績評価の基準について説明を求められた場合、法人は、いかなる評価基準に基づき、成績評価を行うかを具体的に説明する必要がある」と指摘しています。
中高で進行する教育破壊
中高では最上位の等級以外は基本給が早期に頭打ちとなり、人によっては生涯賃金で約3000万円の減収になります。しかも、制度導入時の教員に対する格付け基準も不明瞭なまま校長が一方的に決定。校長による恣意的な評価が横行し、評価権を濫用した校長のパワハラ的行為がエスカレートしたことで、中高では民主的で自由闊達な教育活動が破壊され、物言えぬ職場になりつつあるとしています。
また、同教職員連合は2019年10月15日に不当な評価によって賃金の減額を受けた原告らが東京地裁に集団提訴したことを発表しています。