労働契約承継法とは

会社分割の際に労働者を保護する法律

 日本IBMグループのインフラストラクチャー・サービスが分社される日が刻一刻と近づいています。私たち従業員としては雇用や労働条件がどうなるか、という点が心配です。そこで、労働者を保護するための法律「労働契約承継法」の概要を厚労省のパンフレットからご紹介します。
 労働者一人では立場が弱いため、この法律では労働者の代理となる労働組合と会社との協議を重視しています。

労働契約承継法とは

 私たちは法的には会社と労働契約を結んで働いています。従って、会社分割の際は労働契約がどのように扱われるのかが焦点となります。
 会社分割制度で分割をした会社の権利義務は、労働契約もろとも包括的に承継されるため、当該労働者が何も知らず、一方的に不利益を被ることのないよう、労働者保護の観点から制定された法律が、通称「労働契約承継法」、正式名称「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」です。
 労働契約承継法は会社分割に伴う労働契約の承継について、労働者や労働組合等への通知や協議、異議申出の手続、効力等を定めています。会社は会社分割にあたって、この規定に従わなければなりません。ここで「労働者」とは、分割会社が雇用する労働者のことであり、分割会社との間で労働契約を締結している労働者すべてを指します。すなわち、正社員だけでなく非正規社員も含まれます。

理解を得る義務

 会社は、会社分割に当たって、労働者の理解と協力を得るよう労働組合や従業員代表と協議を行う必要があります。
(1)努める事項
① 会社分割をする背景及び理由
② 会社分割の効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事
③ 項承継される事業に主として従事する労働者に該当するか否かの判断基
④ 準労働協約の承継に関する事項
⑤ 会社分割に当たり、労働者との間に生じた問題の解決手続
(2)団体交渉権
 会社は、労働組合による団体交渉の申し入れがあった場合には、その労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければなりません。
(3)開始時期等
 遅くとも分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日等までに労働組合との協議に着手する必要があります。

協議をする義務

 商法等改正法附則第5条では、会社が会社分割を行う際、労働者と協議をしなければならないと規定しています。会社は当該労働者の労働契約を承継会社に承継させるか、分割会社に残留させるかについて事前に協議しなければなりません。必要な説明を十分に行い、希望を聴取した上で決定する必要があります。
(1)協議の対象となる労働者
・承継される事業に従事している労働者
・承継される事業に従事していないが承継対象とされる労働者
(2)協議の対象事項
 会社は以下①~③を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、④・⑤について協議することが必要です。特に②については、債務の履行の見込みのある・なしに関わらず労働者に適切に説明する必要があります。なお、他にも協議が必要と認められる場合は、その事項についても協議を行うことが必要です。
【対象事項】
① 当該労働者が勤務することとなる会社の概要
② 分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
③ 承継される事業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方
④ 本人の希望を聴取した上で、当該労働者の労働契約の承継の有無
⑤ 承継するとした場合又は承継しないとした場合に、当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他の就業形態等
 また、主として従事していなくても職務の内容に影響しうる場合は、上記とは別にその説明を行うなど一定の情報を提供することが望まれます。
(3)協議の代理人
 労働組合を当該協議の代理人として選定することができます。団体交渉の申し入れがあった場合には、会社は、その労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければなりません。
(4)協議開始時期
 会社は、通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始し、十分に説明、労働者の希望を聴取した上で、労働契約の承継の有無について十分協議できるような時間を確保する必要があります。
(5)協議義務違反
 当該協議を全く行わないか実質的に同視し得る場合は、会社分割の無効の原因となります。
最高裁判例(平成22年日本IBM事件)により、法の趣旨に反する場合は承継の効力を個別に争うことができます。

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