行くのか行かないのか判別が重要
これまで、3月1日号と3月15日号で労働契約承継法と会社分割制度についてご紹介してきました。今回は会社分割の際に従業員としてどういった点に注意する必要があるかを解説します。
会社分割制度では移籍に際して本人の同意を必要としないため、自分が行く人なのかそうでないのか、その点に注意しないと思わぬ結果につながりかねません。過去の日本IBMの事例ではこの間違いが非常に多いことが分かっており、注意する必要があります。
組合はすでに商法等改正法附則第5条、及び労働契約承継法第7条、さらに、組合員の労働条件に関する協議協定に基づき、下記にご紹介する観点での要求書を提出し、協議を開始しています。
主従事労働者とは
主従事労働者とは、承継される事業に専ら従事している労働者をいいます。会社分割制度で包括的に承継される際、「主従事労働者」と呼ばれる人には異議を申し出る権利がありません。従って、主従事労働者に入っているかどうかが非常に重要になります。
労働者が承継される事業だけでなく他の事業にも従事している場合には、それぞれの事業に従事する時間、果たしている役割等を総合的に判断して、「主従事労働者」か否かを決定することになります。
総務、人事、経理等のいわゆる間接部門に従事する労働者であっても、承継される事業のために専ら従事している労働者は、「主従事労働者」となります。なお、それ以外の業務も行っている場合は総合的に判断することになります。
研修・応援等のように承継される事業に一時的に従事している場合で、当該業務の終了後には承継される事業に主として従事しないことが明らかである人は主従事労働者に当たりません。
意図的な配置転換ダメ
判断基準は上記のようになるとして、もし会社が特定の労働者を排除する目的で意図的に配置転換を行なったらどうなるでしょうか。
その場合、合理的理由なく労働者を排除することを目的として会社分割前に意図的に配置転換を行ったような場合には、当該労働者は配置転換の無効の主張を行うことができます。
見解の相違がある場合
会社と労働者との間で、「主従事労働者」に該当するか否かについて見解の相違があるときには、商法等改正法附則第5条の労働組合との協議により解決することができます。この場合、労働者は労働組合を当該協議の代理人として選定することができます。
それでもなお解決しない場合には、最終的には裁判によって解決を図ることができます。
会社分割利用の解雇
会社は会社分割のみを理由とする解雇を行うことは許されません。
また、会社分割後に倒産するなど、債務の履行の見込みが無いことが分かっているにもかかわらず、労働者を会社分割で移籍させる場合など、特定の労働者を解雇する目的で、この制度を濫用することはできません。
労働条件の継承
会社は、会社分割を理由とする一方的な労働条件の不利益変更を行ってはいけません。福利厚生制度なども労働条件として維持されます。もし同一内容で引き継ぐことが難しいものは情報提供を行うとともに、労働組合との協議により、代替措置等を含む妥当な解決を図らなければいけません。
異議の申出
会社が「主従事労働者」をもとの会社に残留させる場合や、「非主従事労働者」を行かせる場合には、これらの労働者は、異議の申出を行うことができます。
会社は、これらの労働者が、異議の申出を行ったことを理由として不利益な取扱いを行ってはなりません。