日本IBMの定年後再雇用制度であるシニア契約社員の賃金があまりにも低い状態が続いており、会社の社会的責任やモラルが問われています。そこで今回から、日本IBMのシニア契約社員の賃金に関する問題点や労使交渉の模様などをシリーズで連載します。
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会社は、2023年10月にシニア契約社員の月額給与(週5日)を17万円から18万5千円に引き上げた根拠について、8月21日に文書回答しました。しかし会社はこの文書回答でその根拠を明らかにしませんでしたので、組合は同日の団体交渉でその根拠を改めてただしましたが、会社は文書回答の内容を繰り返し、依然としてその根拠を回答しませんでした。結局、8月21日の文書回答と団体交渉では、会社はシニア契約社員の賃金を決定するにあたりマーケット調査を実施していることがわかっただけで、
シニア契約社員の月額給与18万5千円・年収222万円の根拠は全くわかりませんでした。
以下に、会社の8月21日の文書回答と、同日の団体交渉でのやり取りを紹介します。
会社の8月21日の文書回答(抜粋)
・当社がシニア契約社員の給与を決定するにあたっては、マーケット調査の結果をベースとしつつ、今後の景気動向、当社の業績予測、関係する業界における人材確保の可否等の諸般の事情を総合考慮して決定しております。なお景気や業績が悪化しても一度上げた賃金を下げることは困難であるため、当社が考慮しているのは短期的な景気動向や短期的な業績ではなく、中長期的な動向を考慮していることにご留意いただけると幸いです。しかし上記のような諸般の事情は補足的に考慮するものであってマーケット調査の結果が基本となっていることに変わりありません。これ以外にも最低賃金等の法令遵守に関する事項は、当然ながら考慮要素に含まれています。・当社は守秘義務を負っているため、マーケット調査の方法、内容、結果等に関する具体的な情報・資料開示することは、申し訳ありませんができません。
8月21日の団体交渉でのやり取り(抜粋)
組合
マーケット調査を実施されていますと。その結果、18万5千円になったとしている。その根拠がわからないです。2012年ですか、65歳まで雇用しなくてはいけなくなったから、経営に多分一番インパクトの少ない形の制度を考えましたと言うことだと理解しました。それが本当に一番低い水準で最低賃金よりちょっとだけ高いバンド3だということになったんだと理解しました。でも、12年も経ってるわけです。ずっとその状態が続いています。マーケット調査では、他のIT業界だとバンド3相当の社員がいないと、事実上おっしゃっていますけど、本当にマーケット調査するのであれば、バンド3相当の正社員がどういう処遇なのかではなくて、他社のIT業界で定年後再雇用の水準がどの程度かというところを調査すべきなんじゃないですか。いきなり最低賃金レベルになる会社がどれくらいあるのですか。
会社
賃金からこの議論が、当時スタートしたというよりは、なかなか読めない業績予測の中でいかに雇用を確保するか、その責任をまっとうするかというところから始まっていますので、その十何年の間変わってないというのは確かに事実としてあるんですけれど、もともと、その賃金からスタートした話ではございません。
組合
同じ会社で同じ部門の中で働いている人たちの内で、59歳までの人はペイ・フォー・パフォーマンスです。スキルに応じた賃金ですと言われて一生懸命やってる。60歳になった途端に、それ全然関係ありません、一律にバンド3の仕事しかありませんと言うことがモラルとしてどうなのか、人間のですよ、従業員の扱いとしてどうなのかっていう観点で人事としてどうお考えなのか。本当に本質的に経営だけの観点ではなく考えていただきたい。つまり会社は、再雇用制度という制度を作っているけども、決して、労働者が望まない制度を作っておいて、望まないから辞めていってくれるだろうと、再雇用されない制度を作る、再雇用を希望されない制度を作ることによって、2012年の法律を逃れている、と言わざる得ないような(賃金の)低い制度ですよ。ここを本当に反省しないとまずいし、それを改定して、本当にいわゆる儲けを出してくれるための再雇用社員を目指してもらうことによって、私は、会社が損することなんてありえないと思うんです。年内に見直しをすることを検討されている状態なのか、何も今進んでないのか、どういう状態と考えていいですか。会社見直しの可能性はあります。現時点で変えるも変えないも結論は出ておりませんけれども、毎年、マーケット調査を行っていますし、今年もそれを行う予定なので、それを踏まえてどう設定するべきかというのは検討します。(次回につづく。ご期待ください。)