定年後再雇用賃金差別裁判 和解成立で円満解決 

当支部組合員の原告2名が、定年後再雇用(シニア契約社員)に移行し、定年時から年収を大幅に減額されたため、差額相当分の損害賠償を求め東京地方裁判所に提訴した裁判は、和解により円満に解決いたしました。以下に和解成立にあたっての声明を紹介します。

1 定年後給与減額に関して会社との和解

原告ら、JMITU、同東京地方本部、同日本アイビーエム支部及びキンドリルジャパン株式会社(以下「キンドリルジャパン」という)は、2025年3月18日、東京地方裁判所にて、原告らが定年後継続雇用(シニア契約社員)として月額給与17万円(年収204万円)と定年時の年収から大幅に減額されたため、差額相当分を損害賠償請求していた本件請求に関して、双方の互譲により、キンドリルジャパンが一定の金銭の支払いを含むことを骨子として和解により円満に解決した。

2 本件請求の具体的な内容

原告2名は、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「日本IBM」という)に勤務していたが、2018年に60歳定年を迎えた。定年後は日本IBMの高年齢者継続雇用制度であるシニア契約社員制度の適用を受け、1年の有期雇用契約を締結し65歳まで契約が更新されることになった。ところが、日本IBMは、シニア契約社員は一律に月額17万円の基本給(賞与・手当なし)と定めており、原告ら2名も月額給与17万円(年収204万円)とされた。この給与水準は、原告2名の定年時年収の2割弱の水準であった。シニア契約社員となっても、労働時間及び配置転換の範囲、人事考課は正社員と同様とするというものであったそ 。こで、原告2名は、定年後も定年前と実質的に同様の業務に従事しているとして、2020年4月1日、日本IBMに対してパート有期雇用法8条の均衡待遇に違反するとして東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した。日本IBMは、原告2名の定年後の業務は定年前の業務とは異なり、バンド3に該当する補助的業務であるから年収204万円の給与は不合理ではない旨を主張した。日本IBMは、原告2名が従事していた部門を、2021年9月1日、キンドリルジャパンを承継会社として会社分割(吸収分割契約)をしたため、原告2名の有期雇用契約はキンドリルジャパンに承継されることになった。その結果、本件損害賠償請求事件もキンドリルジャパンが訴訟を承継することになったが、キンドリルジャパンも日本IBMと同じく、原告らの業務内容が定年前と定年後は異なるとして、年収の減額は不合理ではないとして争った。以上が本件請求の具体的な内容である。

3 日本IBM及びキンドリルジャパンの労使関係

日本IBMでは、定年後の高齢者継続雇用に関しては、定年時から給与が大幅に減額されている。JMITU、同東京地方本部、同日本アイビーエム支部(以下「JMITU」という)は、定年後のシニア契約社員の基本給月額17万円を増額するよう要求し、同時に月額17万円とする理由を団体交渉で説明するように求めた。ところが、日本IBMは、「シニア契約社員の担当する業務の重要度・困難度を勘案して決定している」と説明するだけで、具体的な説明を行わなかった。そこで、JMITUは、日本IBMの対応がパート有期雇用法14条の説明義務に反するだけでなく、労働組合法7条2号が禁ずる不誠実団体交渉であるとして、2020年11月、東京都労働委員会に不当労働行為救済命令を申し立てた。この不当労働行為救済命令申立後、都労委で審理中に、上記のとおり日本IBMは原告ら2名が所属する部門をキンドリルジャパンに会社分割をした。東京都労働委員会(都労委)は、2024年3月18日、日本IBMに対して、JMITUに対してシニア契約社員をバンド3として給与を決定した理由、正社員との待遇の相違の理由を団体交渉にて誠実に説明すること、承継会社であるキンドリルジャパンに対しても誠実に団体交渉に応じるように命じた。キンドリルジャパンは、この都労委命令を受け入れて、JMITUと定年後再雇用者の給与等の団体交渉に誠実に応じることを表明した。JMITU日本アイビーエム支部は、キンドリルジャパンに対し、2024年11月、あらためて定年後再雇用者の給与等の労働条件に関して、定年後も定年前と同一業務に従事している場合には定年時と同じ待遇とし、定年後に同一業務に従事していない場合であっても定年前給与の8割を維持するように要求して団体交渉を申し入れ、キンドリルジャパンとの団体交渉を積み重ねてきた。キンドリルジャパンは、2025年1月6日、60歳定年を65歳に延長して定年後の待遇を維持することを発表した。対象者は2025年4月1日以降に60歳となる社員からである。待遇を維持したままの65歳への定年延長は、キンドリルジャパンの英断と高く評価できるところである。一方、日本IBMは、この都労委の救済命令を不服として中央労働委員会に対して再審査申立をした。

4 本件和解の意義

定年後再雇用の給与について、多くの会社では、定年時から減額されているにもかかわらず、労働者・労働組合に対して、その理由や根拠について団体交渉にて誠実に説明されていない。JMITUは、日本IBM及びキンドリルジャパンに対して誠実な団体交渉を求めて闘った。結果、キンドリルジャパンでは待遇を維持したまま65歳定年延長が実現するに至った。これは、JMITUの不当労働行為救済命令の申し立て、また、定年後再雇用による給与削減について本件訴訟に取り組んだことによる大きな成果である。本年の春闘においても、多くの職場で定年後再雇用社員の労働条件の維持・改善の取り組みがなされているところであるが、この成果が他の多くの職場での定年後再雇用社員の待遇改善につながることを期待するものである。一方、日本IBMとの関係では現在も中央労働委員会にて都労委命令の再審査手続が係属中であり、この争議の勝利に向けて全力をあげている。これまでのご協力に心から感謝を申し上げるとともに今後ともご支援をお願いします。

2025年4月1日JMITU(日本金属製造情報通信労働組合)同東京地方本部同日本アイビーエム支部定年継続雇用パート有期雇用法8条違反訴訟弁護団

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