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相談窓口

集団的労使交渉で働きやすい会社にしよう

 前ページで、私たち従業員一人ひとりの様々な不安や不満、そして切実な要求を紹介させていただきました。でも、黙っていてはこれら不満の改善や要求の実現はできません。会社と交渉する必要があります。しかし、一人では交渉力に限界があります。

対等の立場とは

 一人では小さい交渉力でも、集団化することで大きくできます。会社は従業員をできるだけ安い給料で長時間働かせ儲けを出そうとします。さらに成果主義賃金で従業員が団結しないよう、できるだけ格差をつけてお互いに競争させようとします。私たち従業員が集団化することは容易ではありませんが、このアメリカ型企業経営むき出しの会社にあってより良い労働条件にするには、上図のように労働組合で集団化し対等の立場で交渉する必要があります。(学習の友20春闘別冊より)

労働組合の力

 私たち従業員は、労働組合に集まり団体交渉やストライキなどで、より良い労働条件を契約させることができます。
 憲法でも、私たち労働者が弱いことを前提に、労働組合で集団化することを保障し、推奨しています。ストライキで仕事をボイコットして、経営に損害を与えても罰せられることが無いのは、憲法で労働三権を保障しているからです。

グーグルやアマゾンも

 アメリカでもグーグルやアマゾンの従業員がストライキに立ち上がっています。中でも2018年のグーグルのストライキはアメリカに限らず全世界で2万人の従業員がセクハラや不正行為を正すことを要求してストライキを決行しました。その結果、セクハラをした役員は会社を去りました。
 アマゾンでも処遇改善を求めて従業員がストライキを起こし、見事に昇給を勝ち取っています。

賃金は生計費原則で

 2357号でご紹介したように私たちの賃金は成果主義賃金制度によってこの14年間で大きく下げられています。では、どういう基準で賃金を要求すれば良いでしょうか。
 その答は、私たちの生活の中にあります。私たちは一日の時間のほとんどを会社のために使い、それで得た賃金で生活しています。つまり、私たちは人間らしく暮らし、子供に十分な学校教育を受けさせ、親の介護もできるような賃金をもらう必要があります。これを生計費原則と言います。
 その生活レベルの要求としては、日本IBMグループ社員として「社会的平均的」な生活レベルがひとつの目安になります。そのためにも皆が集まって平均要求レベルを議論する必要があります。その土台となるのが労働組合なのです。

こんな評価はパワーハラスメント

 日本IBMの1月は人事考課であるチェックポイント評価の時期です。ところが、合理的な理由無しに低評価にされる人が後を絶ちません。
 パワハラとは職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為です。この定義を振り返ってみると、日本IBMでは評価制度がパワハラの手段になってしまっていると言わざるを得ません。
 私たち社員は評価でパワハラやそれに続く不利益を受けないよう、徹底的にこだわる必要があります。そこで、2354号1面の人事考課権限の濫用記事を分かりやすくチェックポイント評価に当てはめ、解説します。

目標管理は適切か

 成果主義を社員に求める以上、その目標設定については年初にしっかりコミュニケーションを取り、社員が納得する形で設定されていなければなりません。以下のような例はパワハラになります。
●年間を通じて所属長とのコミュニケーションが十分でなく、目標が不明のまま低評価にされた。
●部門目標が最初に決まっており、社員個人のスキル、生活の事情、仕事の負荷などを考慮せず、目標に達していないことを理由に低評価にされた。
●目標設定の際、所属長が聞く耳を持たず、一方的に高い目標を課せられ、低評価にされた。

客観性のある評価か

 目標の設定は客観的な評価ができるようになっていなければなりません。以下のような例はパワハラになります。
●目標として業務の項目名が列記されているだけで具体的な目標が無く、それらが未達だとして低評価にされた。
●「適切に実施すること」という目標の結果が不明なまま低評価にされた。
●コミュニケーションに問題があるとして低評価にされた。
●実際に働いた時間を申請できない、と文句を言ったら低評価にされた。

評価根拠は適正か

 評価はしっかりとした事実に基づくものでなければなりません。以下のような例はパワハラになります。
●評価する段階になって、後から目標を付け足し、今まで聞いたことのないような理由で低評価にされた。
●関係者による事実と異なる作り話を、所属長が検証せずそのまま低評価にされた。
●違う事業所で勤務しており、一度も現場に来たことが無い所属長に、聞いたことも無い理由で低評価にされた。

評価手続きは適正か

 評価はそれのみが目的ではなく、日々のフィードバックが適正になされ、また、第三者によって検証されなければなりません。以下のような例はパワハラになります。
●所属長の評価を上長がレビューしないまま低評価にされた。
●どう見ても所属長と上長が結託して低評価にされた。

何のための評価か

 そもそも評価は社員の成長を助け、ひいては会社の成長をサポートするものでなければなりません。以下のような例はパワハラになります。
●あなたの仕事は無いと言われ、仕事を取り上げられて、低評価にされた。
●明らかに別の目的があり、職務遂行能力以外のところで低評価にされた。
●メンタル疾患等で通院し、残業禁止等の勤務措置が取られているのに、考慮しない目標を課され、低評価にされた。
●障害等の関係で不向きな部門に配属されても異動されず、無理な目標を課された結果、低評価にされた。

毅然とした態度が身を守る

労災で損害賠償、自殺で上司を書類送検

 新入社員が上司のパワハラで自殺し、労災認定されたり、上司が書類送検される例が相次いでいます。これら新入社員の例に限らず、日本IBM社内でも同様の圧力があり、いつ同じような事件が起こってもおかしくない状況です。
 特にTSS部門の体質には問題があることが以前から指摘されています。各社員が労働法をきちんと理解し、毅然とした態度を取ることが身を守ることにつながります。

パワハラ自殺労災認定

 2017年にトヨタ自動車の入社2年目の男性社員が自殺しました。トヨタ自動車は当初、遺族に対し「死亡は上司の言動によるものとまでは認められず、会社として責任を負うものではない」と説明していました。
 しかし昨年9月、上司のパワーハラスメントが自殺の原因だったとして、労働基準監督署は労災認定しました。遺族側は、今後、トヨタ自動車に損害賠償を求める方針と報道されています。
 男性は15年入社。翌年3月に本社に配属され、翌月から日常的に上司から「バカ、アホ」と言われ、「こんな説明できないなら死んだ方がいい」と暴言、叱責を浴びるようになりました。また、個室に呼び出されて「俺の発言を録音していないだろうな。携帯電話を出せ」などと詰め寄られたとされています。3カ月間休職後、職場復帰し、別グループの所属となりましたが、同じフロアの元上司から再三にわたって嫌がらせを受け続け、「死んで楽になりたい」などと周囲に漏らすようになり、17年10月、社員寮の自室で自殺しました。

上司を地検に書類送検

 三菱電機の20代の男性新入社員が2019年8月に職場で教育主任である上司から「自殺しろ」「殺すからな」などと脅されたとの書き置きを残し自殺しました。30代の上司が自殺教唆の疑いで兵庫県警によって神戸地検に書類送検されました。自殺直前にも上司から、「おまえが飛び降りるのにちょうどいい窓あるで、死んどいた方がいいんちゃう」など、発言を受けたことが克明にメモされていました。
 また、17年にも新入社員の男性が職場の上司や先輩からいじめや嫌がらせを受けて自殺したとして、両親が三菱電機に対し約1億1800万円の損害賠償求める訴訟をを東京地裁に起こしています。
 他にも14年~17年に男性社員5人が長時間労働が原因で労災認定。そのうち2人が過労自死であったことが報道されています。

問題の多いTSS部門

 TSS部門のカストマーエンジニア(CE)は、会社のリースカー、すなわち社用車を運転して部品や工具等を運搬し、お客様現場のサービスにあたっています。ところが、お客様先からの帰路でのリースカー運転時間は「勤務時間ではない」と慣例的にガイドされていたため、ほとんどの社員が勤務時間として申請していませんでした。
 これはおかしなことです。リースカーを運転する時間は、「使用者の指揮命令下に置かれている」状況です。労働基準法はこの時間は勤務時間としなければならないと定めています。
 組合はこれまでリースカーの運転時間については、お客様先からの帰路であっても勤務時間としてガイドさせるように会社と交渉を行ってきました。昨年12月11日に開催された団体交渉において、会社は「明確に業務として行われているのであれば、きちんとつけて下さいということを徹底するのが会社の指導である」ということに合意しました。
 更に、TSS部門では、2時間以内は残業を付けさせないというが習慣が残っているため、「自主的に」「みんなつけてないから」「少しの時間だから」などの理由で、勤務時間として計上しない社員が多くいます。そもそも、残業時間は1分からでもつけるものです。少しであっても会社がサービス残業をさせることは労働基準法違反です。世間では、サービス残業が存在する会社はブラック企業と呼ばれます。
 2019年4月に働き方改革一括法が施行されて以降、把握できていない労働時間や隠れた(隠された)労働時間があってはならないのです。労働時間管理は、会社が労働時間を適正に把握するだけにとどまらず、自身を労災から守るため、適正な人員配置を会社に促すため、非常に大切なものです。本当に働いた時間が把握できなければ、会社は正確な業務実態を把握できないのです。
 まず、皆さん自身が自覚して毅然とした態度を取ることこそ、健全な職場環境を作る第一歩になるのです。

日本IBMの賃金上がらず

組合による賃金実態調査結果発表

 今年も多くの方に賃金実態調査のご協力をいただき、ありがとうございました。ここに調査結果を発表させていただきます。母数の関係で一番数の多い日本IBM本体の賃金実態を、新人事制度導入直前の2005年当時のバンド7(係長級)以下の平均賃金と、今年のバンド8(課長級)以下の全職種平均賃金にて比較しました。
 さらに、人数の多い代表的な職種であるコンサル系、営業系、SE系職種のリファレンスサラリー(年収相当額)の上下幅についての調査結果も発表させていただきます。なお、2005年のデータは当時の「年収基準額」のデータにリファレンスサラリー相当の住宅費補助を加えて補正しました。

バンド8含む平均も2005年に届かず

 上図の折れ線は20才代から50才代の全職種のリファレンスサラリーの平均値を表したものです。2005年はバンド7以下の平均値であるのに対し、2019年はバンド8の人を含む平均値です。バンド8の人の比率は年代が上がるほど増えていますが、2005年の賃金カーブには届きません。
 近年、会社は賃金を上げるにはバンドを上げることだ、というメッセージを出していますが、それは嘘であることが分かります。年代が上がるほど平均賃金が抑制されていることが一目瞭然です。

振れ幅の大きい営業系

 それぞれの年代ごとに表示されている縦棒は、左からそれぞれコンサル系、営業系、SE系のリファレンスサラリーの上下幅です。例えば20代のコンサルの最高は900万円で最低は400万円です。なお、バンド8以下の50代のコンサル回答が無いため、50代はコンサルの縦棒がありません。50代のバンド8以下は生き残れないということなのでしょうか。
 営業系は30代以降の上下の振れ幅が大きいことが特徴です。なお、今回はコミッション額も聞きましたが、どの年代も平均的に年間300万円~400万円のコミッションを得ていることがわかりました。
 30代は、どの職種も振れ幅が小さくなっていますが、SE系が極端に振れ幅が小さいのはサンプル数が少なかったためです。40代との対比で下は500万円程度になることが推測できます。

時給最低1500円

 社内で時給で働く人は最低でも1500円以上であることが判明しました。時給換算で千百円程度のシニア契約社員給与の早急な格差是正が求められます。

従業員代表選挙に人事部門が介入

本社で組合推薦候補が健闘、1400票獲得

 11月25日、時間外および休日労働に関する協定(いわゆる36協定)および裁量勤務制度等の協定締結のための従業員代表を選出する本投票が行われました。選挙結果は、表のとおりです。組合推薦候補は代表にはなれませんでしたが、本社で合計1400票を獲得する大健闘でした。改めて組合推薦候補への多数の投票に感謝いたします。ありがとうございました。
 今回選ばれた従業員代表の任期は12月1日から1年間です。私たちはこの間行われる協定締結や、場合によっては就業規則の変更その他の改定について、何の疑義も示さず会社案を追認しないよう従業員代表を監視していく必要があります。

集計前の得票率を人事部門が把握

 今回行われた従業員代表選挙では、電子投票が従来のメールからWeb投票に切り替えられましたが、電子投票の締め切り日(11月22日)前の11月15日に人事からライン専門職に「現在従業員代表選挙が実施されておりますが、箱崎事業所において各ブロックとも投票率が過半数に至っていない状況です」とメールが発信されました。
 さらに同じメール内に「以下は、事業所総務より来週以降、社員宛てに発信されるリマインダーメールです」とあり、そこには、「取得率が50%を超えるまで1回/毎日配信」と書き添えられています。これは集計前の各立候補者の得票数(率)を人事部門が把握し、コントロールしていたことを示しています。
 人事部門の介入は民主的な従業員代表選挙の実施を妨げるものです。今後、従業員代表選挙にこのような介入が行われないよう、私たち従業員は徹底して監視していく必要があります。

従業員自治で選挙運営を

 公正な従業員代表選挙を行うためには、徹底した従業員の自治管理で行う必要があります。今回の選挙の公示を振り返ると、11月5日に「本社事業所を5ブロックに分け、そのブロックごとに代表選出のコーディネータを任命し、本社事業所従業員代表の選出を行います」と掲示されています。その上で別紙に、「従業員代表選出事務サポート要員の指名」と題して総務のメンバーが指名されています。このメンバーと選挙立会人以外は選挙運営にかかわるべきではありません。

電子投票の集計作業を事務サポート要員が非公開

 電子投票の集計と紙投票の開票作業は、不正が起こらないように、従来から、コーディネータと選挙立会人のもとで行うことになっています。今回もこの作業は、コーディネータと立会人のもとで行うことが事前に通知されていました。
 しかし、電子投票の集計作業を事務サポートの担当者一人が勝手に非公開で行った上、集計後の結果を示す内容を立会人に提示するだけでした。これでは、あらゆる不正操作ができてしまうことを意味し、公正な選挙が行われたことが担保されません。

会社が都合よく選挙方法を変更してきた歴史

 会社は、従業員代表選挙の方法を都合よく変更してきました。2009年までは、就業規則の改定や会社分割等のたびに従業員代表の選出を行い、従業員にその信を問うてきました。しかしその方法では反対票が増えてしまうため、会社にとって不都合でした。
 そこで、2010年以降は36協定締結のために選出した従業員代表に一年の任期を与え、その間に就業規則変更等を進めてきました。
 例をあげると、2010年には、「年1回昇給を行う」という格付規定を「給与調整」という表現に変更しました。
 また2013年には、住宅費補助の廃止や借り上げ社宅制度の廃止を実施しました。
    ・・・
 以上のように、会社は思いのままになる従業員代表を選んだ上で、好きなように労働条件の改悪を行ってきました。組合推薦候補はこのような労働条件の改悪は許しません。今後も組合推薦候補の応援をお願いします。

冬ボーナス大手回答96万5千円 日本IBM予想平均83万4千円

 11月14日に経団連より発表された今年の冬ボーナスにおける大手企業妥結状況は、82社の平均で96万5千円。昨年の冬ボーナスの平均93万5千円から3万円も増加しています。
 その一方で日本IBMのバンド7以下での組合予想平均支給額は83万4千円(1.90ヶ月)と、大手平均よりもなんと13万円も低い水準で、しかも昨年の日本IBM平均の84万6千円からも1万2千円の減少です。
 左表はJMITU主要企業における回答状況ですが、12年前までは常にトップだった日本IBMはもはや見る影もありません。同業のNTTデータにも水をあけられています。
 組合は引き続き組合員の賃上げ額、個人業績率、会社業績達成度について協議を重ね、上積み回答を目指します。

シニア契約社員へのボーナス不支給は違法

 10月7日号で既報の通り「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月1日から施行されます。同じ企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当など、あらゆる待遇について不合理な差別をすることが禁止されます。
 それに合わせて厚生労働省からガイドラインが発表されています。右下コラムにガイドラインの抜粋を紹介していますが、わざわざコメントを設けて定年後継続雇用者、すなわち日本IBMのシニア契約社員も同法が適用されることを強調しています。
 現在シニア契約社員には賞与が支給されていませんが、ガイドラインによればこのままでは違法となります。シニア契約社員と正社員との間の働き方には目標設定の差こそあれ事実上の違いは無いからです。来年4月の法律の施行に間に合わせるためには、この12月の契約更新の段階で契約内容に賞与の支給も加える必要があります。
 さらに、本給17万円もその根拠が無いため直ちに修正する必要がありますし、福利厚生についても現在無給となっている契約社員の慶弔休暇は正社員と同一の利用・付与を与える観点から有給としなければなりません。

パワハラ防止法の骨抜き指針

 弁護士、労働組合が是正を強く要求

 パワハラについて事業主に防止対策を義務付けた労働施策総合推進法の改正を受けて、現在、厚生労働省の労政審で、いわゆるパワハラ防止法の指針の策定・改定が議論されています。
 しかし、11月20日に了承された指針は、パワハラ防止策となっていないばかりか、むしろパワハラの範囲を限定・矮小化し、会社にパワハラに当たらないという言い訳を許すことによって、かえってパワハラを助長しかねない内容となっています。

パワハラを初めて法律で定義

 労働施策総合推進法・第30条の2において、パワハラが法律で初めて定義されました。
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めました。
 この法律自体には、国や企業、労働者の責務について具体的な説明がありません。そこで、事業主の雇用管理上講ずべき措置義務の内容について定める指針の策定が労政審で議論されています。今回了承された指針は「パワハラにお墨付きを与えかねない」内容となっており、内外から批判が起こっています。

パワハラに該当する範囲を縮小

 今回の指針では、パワハラについて、法の趣旨を軽視し、法律の文言を狭く解釈しています。
 例えば、「優越的な関係を背景とした言動」の「優越的」の意味を、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性(がいぜんせい)が高い関係」とことさら狭く説明しています。これでは、パワハラ被害者に対し、抵抗とか拒絶できなかったのかと加害者の擁護に使われてしまいます。本来、職務上の地位や人間関係、専門知識など何らかの事由で優位性が認められれば十分なはずであり、それを背景としたハラスメントは防止される必要があります。

職場の意義を狭く説明

「職場」の意義について、「業務を遂行する場所」と狭く説明しています。例えば、懇親会の場などにおいてもハラスメントが行われているのは周知のことであり、これらのハラスメントも防止される必要があります。

パワハラに該当しない例は会社の弁解カタログ

 指針では、6つの行為類型ごとにパワハラに「該当する例」と、企業側の強い意向で「該当しない例」も加えられています。しかし、パワハラに該当しない例を示す必要性は全くありません。これらは「使用者の弁解カタログ」と批判されています。企業側に恣意的解釈の余地を残すことになるからです。
 例えば、「怪我をしかねない物を投げつけること」はパワハラに該当するとしていますが、それではまるで怪我をしない物であれば投げてもよいかのようです。
 他にも、「自身の意に沿わない労働者を別室に隔離する」のはパワハラだが、「処分を受けた労働者に通常の業務に復帰させる前に別室で必要な研修を受けさせる」ことはパワハラに該当しないとしました。処分とは何を意味するのか、また研修期間も不明です。

参院の附帯決議を尊重

 一方、参院で「労働者の主観」への配慮が附帯決議された件を受け、「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」ことは当初パワハラに当たらないとしていましたが、今回の指針では削除されました。
 しかし、取引先や顧客等の第三者から受けるハラスメント、及び、取引先や就職活動中の学生、フリーランス等の社外の者に対するハラスメントへの配慮、性的指向・性自認に関するハラスメント及びアウティングへの配慮については、まだ不十分な対策しか示されていません。

ご意見を募集します

 厚労省は指針へのパブリックコメント(公募意見)を募集した上で、年内に正式決定するとしています。全労連やJMITUは抜本的見直しを求める意見を集め、さらなる修正を迫ろうと呼びかけています。是非組合ホームページから投稿をお願いします。皆様のご意見をお待ちしています。

パワハラ降格裁判提訴

会社ぐるみのやり方に一石

 2019年11月6日、組合員2名が日本IBMを相手取りパワハラ降格裁判を提訴しました(写真は厚生労働省での記者会見の模様)。
 今年成立したパワハラ防止法を受け、厚労省から法律の指針素案が出されましたが、対象が狭く、ハラスメントを個人的に行われるものに限定して矮小化しています。そのため、経営方針そのものが利潤追求ばかり追い求め、根本的に労務政策がゆがんでいる数多くの会社ぐるみのやり方が視野に入っていません。
 今回の裁判提訴は会社ぐるみのパワハラに一石を投じるものです。

裁判に至る経緯

 日本IBMでは、「パワハラ3点セット」と呼ばれる組織的パワーハラスメントが横行しています。パワハラ3点セットとは「パワハラ低評価」「パワハラPIP」「パワハラ賃下げ」を総称したものです。この延長線として「降格」によりさらに賃下げを行い、ハラスメント効果を上げようとしたのが今回の事件です。
 一人目の原告森谷さんは2016年に退職強要の一環でバンド7からバンド6に降格されました。退職勧奨を拒んだところ、仕事を外され、それが故に低評価をつけられ、低評価を理由にPIPを強要され、そして賃下げもされました。PIPの中では繰り返し退職勧奨を実施され、それを拒み続けたところ、報復としてバンド7からバンド6に降格されたのです。
 二人目の原告は2018年にPIPを実施されました。PIP面談の中で、「提携先の転職斡旋会社で転職先を見つけてこい」、「退職するか降格するかを自分で選択しろ」などと異常な退職強要を受けました。あげくに「スキルに合わない人員募集でも応じないというのなら、グーでパンチするぞ」といった脅迫文言までありました。それを断ったところ、バンド7からバンド6に降格されました。しかも、降格されたことすら告げられませんでした。

パワハラ3点セットとは

1.パワハラ低評価
 合理的な理由無しに低評価とするもの。人員削減のターゲットとなった人がパワハラ低評価の標的となります。
2.パワハラPIP
 PIPとは業績改善プログラムのこと。低評価を理由に強要されますが、改善とは名ばかりで、PIP面談の中では退職勧奨や個人攻撃が繰り返されます。
3.パワハラ賃下げ
 個人を狙った賃下げ。個人の業績が期待に達しなかった、として最大で年収の15%が賃下げされます。賃下げすることによって会社から追い出すことを狙っています。この賃下げは労働契約法違反だとして、パワハラ賃下げ裁判で係争中です。

従業員代表選挙

組合推薦候補に投票を

 11月5日、36協定及び裁量労働勤務制度に関する協定などの締結のため従業員代表選挙が公示されました。
 これまで会社は、労働条件の切り下げをやりたい放題にしてきました。例えば、「年一回の昇給を給与調整」に変更。社員から絶大な支持のあった「借り上げ社宅制度の廃止」などを強行してきました。このとき選出された従業員代表は、これらの重要な変更について、何ら疑問も持たず、会社から言われるままに賛成・署名し、労働条件の切り下げに加担してきたのです 。
 このような事例を問題視した厚生労働省の労働基準局長は、平成30年9月7日発行の基発0907第1号において、「労働基準法の規定に基づき労働者の過半数を代表する者を選出するに当たっては、使用者側が指名するなど不適切な取扱いがみられるところである。このため、過半数代表者の要件として、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」を施行規則において明記しました。すなわち、会社が従業員代表選出にあたり介入すると、労働基準法違反になります。
 公約は以下になります。まず、36協定の中に、「すべての法定休日を労働させる可能性がある」とあります。これでは過重労働になるため、「法定休日に労働した場合は、振替休日を取得させるものとする」とします。
 さらに、日本IBMの裁量勤務手当は他の大企業と比較して低い水準です。手当を増額しなければ協定を締結しません。
 また、問題となっている勤怠管理システムWоrkdayの品質を改善させます。
 組合推薦候補はみなさんを裏切りません。

人事考課権限の濫用はパワーハラスメント

 成果主義とかペイ・フォー・パフォーマンスといって評価とそれに伴う不利益で脅迫して社員を支配する会社運営が続いています。日頃何のフィードバックもなく評価だけ下げてくる手口も出始めています。何をもって低評価をされて不利益を被るかと疑心暗鬼で毎日を過ごすようでは仕事に誇りを持てなくなり心身ともに疲弊してしまいます。この問題について考えてみます。

人事考課権限の濫用

 恣意的、意図的に、低い評価をするなどの場合は人事考課の結果がパワハラと言えます。パワハラは職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為です。場合によっては安全配慮義務違反にもなります。
 それだけでなく、人事考課権限の濫用は、労働契約法第三条第五項で禁じている労働契約に基づく権利行使に当たっての濫用にも該当します。
 具体的にどのような不当な評価が該当するのか考えてみましょう。

評価そのものの問題

 客観的な評価基準などが無く、上司の裁量で主観が相当入り込んでいる場合や、評価基準はあってもその内容が曖昧であったり、あるいは評価する上司がそうした基準(客観的な評価基準)を厳密に捉えず恣意的・感情的に評価がなされる場合は、人事考課権限の濫用に該当します。
 コミュニケーションに問題がある、期待に満たないと称して低い評価をする場合はこちらに該当します。

根拠の事実の問題

 そもそもその根拠となる事実が、会社または上司によって恣意的に作り出されたものである場合には、人事考課権限の濫用に該当します。
 事実と異なる作り話(嘘・虚構)や認識間違いによって事実が曲げられ、それによって低評価根拠としている場合はこちらに該当します。

人事考課権限濫用の類型

 人事考課権限濫用には以下のようなタイプがあります。
①強行法規違反
 人事考課が強行法規(労基法3条、雇用機会均等法6条、労組法7条など)に違反している場合がこれに該当します。
②成果主義人事の趣旨に反する査定
 成果主義人事において、職務遂行能力以外のステレオタイプな属性(婚姻の有無など)を理由に低い査定を行うことは、人事考課の本旨に反し、これに該当します。
③人事考課制度の趣旨・手続きに反した不適切な運用
 人事考課が制度に違反・逸脱して行われている場合がこれに該当します。
・客観的基準を無視した恣意的・感情的考課
・考課項目・考課基準適用の誤り、事実誤認による不当低評価
・考課手続が遵守されず形骸化(一次考課者の判断のみで決められている、フィードバック制度が遵守されていない)など。
④目標管理の不適切運用、能力開発制度の不備等
 目標設定が高すぎたり、十分な能力開発を行わないまま低い考課を行っている場合がこれに該当します。
 労働者に成果・業績を問う以上、仕事は本人が選択し、その適性やキャリアに適合しなければなりません。それを考慮しないまま配置・配転を行った場合は、公正な考課とは認め難く、人事考課権限の濫用が成立し得ます。

人事考課権限濫用による不利益

 人事考課権限の濫用により労働者に損害が生じた時は、使用者は損害賠償責任を負います。

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