-労働安全衛生法の改正について-
働き方改革関連法は残業時間の罰則付き制限や休暇取得の義務化など、労働基準法の改正が大きな関心を集めていますが、実は労働安全衛生法についても改正されています。
そのひとつが産業医に関してのものです。産業医といえば、昨今では「ブラック産業医」という言葉が流行っており、例えば精神科医でもない産業医に統合失調症と「診断」され、復職を認められずに会社を辞めさせられた、などの事例はインターネット上に数多く見ることができます。
それを受け、働き方改革における労働安全衛生法の改正では特に産業医の独立性・中立性に重点が置かれています。以下にその内容を紹介します。
産業医とは
そもそも「産業医」とはいわゆるお医者さんではありません。産業医は病気の診断や治療をしません。すなわち、産業医は、「診察」という行為を行いません。
産業医は「診察」ではなく、従業員の健康状態や業務への適性を評価する「面接」を行います。その中で、
・病気の疑いで治療が必要か否か
・就労が可能か否か
・労働時間の制限や配慮の必要性はあるか
などを評価し、医学的見地から、中立な立場で、事業者に勧告するのが産業医の仕事なのです。
この観点で、働き方改革関連法の成立を受け平成30年9月7日に厚生労働省労働基準局長より発行された、基発0907第2号を見てみましょう。
産業医は独立・中立でなければならない
この労働安全衛生法施行規則では「産業医等が産業医学の専門的立場から労働者一人ひとりの健康確保のために、より一層効果的な活動を行いやすい環境を整備するため、産業医の在り方の見直しを行ったものである」としています。
産業医が産業医学の専門的立場から、独立性・中立性をもってその職務を行うことができるように、「産業医は、労働者の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない」とされています。
すなわち「会社の立場」ではなく、あくまでも「産業医学の専門的立場」から「独立性・中立性」をもって「誠実に」その職務を行なわなければならないというのが最も重要なポイントです。
産業医は能力の向上に努めなければならない
またブラック産業医が社会問題になっていることを受け、「産業医は、労働者の健康管理等を行うに当たって必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない」とその責任を改めて明確にしています。
産業医が辞任・解任された時は報告しなければならない
産業医の身分の安定性を担保し、その職務の遂行の独立性・中立性を高める観点から「事業者は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会等に報告しなければならない」とされました。
面接指導を受けるかどうかを判断する主体は労働者本人
上記で解説したように、産業医の主な仕事が面接指導です。この面接指導の本来の目的は過労死などの労災を未然に防ぐことですので、「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者」が面接指導の対象となる労働者の要件となっています。
また、産業医が面接指導の対象者を見つけ出せるよう、事業者は「1月当たり80時間を超えた労働者に対し、速やかに、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない」とされています。
ただし、面接指導についても強制的に会社の産業医による面接指導でなければならない、とはなっていません。すなわち、「面接指導を行うに当たっては、当該要件に該当する労働者の申出により行うものであること」を明確にしています。
つまり、あくまでも面接をするかどうかを判断する主体は労働者本人であるということです。産業医はあくまでも呼びかけまでです。労働者が事業者の指定した産業医による面接指導を希望しない場合は、他の医師による面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができます。