11月14日夜、JMITUはオンライン学習会「ジョブ型人事とどうたたかうか」を開催しました政。府が内閣府に設置した「新しい資本主義実現会議」は「構造的賃上げ」などをかかげる一方で、ジョブ型人事の導入を含む「三位一体の労働市場改革の指針」を発表し、働き方の改悪を進めています。学習会では、JMITUの三木委員長が、ジョブ型人事制度の問題点を解説しました。その内容を学習会で使用した資料から抜粋し紹介します。
成果主義は「賃金と生活を切り離す」賃金制度
(1)「ジョブ型人事」とは、本来、「ジョブ(職務)」に応じて賃金や処遇を決定するという意味ですが、実態は賃金・雇用破壊の成果主義的な賃金・人事制度そのものです。(2)「成果主義」賃金の本質は「賃金と生活を切り離す」ということです。具体的には、次のような問題点があります。
「賃金は成果・業績で決めるもの」と言って物価高騰でも賃上げしない
成果主義とは「会社の評価によって個々の労働者の賃金を決める」仕組みです。したがって、労働者全員を賃上げするという意味での定期昇給、物価上昇に応じて賃金を底上げするという意味でのベースアップという考え方は否定されます。日本IBMでは「異常な物価高騰だから労働者全員に一律のベースアップを」という組合の要求に対して会社は「IBMの賃金はあくまで一人ひとりの成果によって決める仕組みだから物価が上がったからといって一律には賃上げしない」と応えています。
会社の評価は恣意的で基準もあいまい
成果主義では上司が個々の労働者を評価し賃金を決めるわけですが、その評価の基準があいまいで不公正なところがほとんどです。会社の都合によって評価の基準が変わったり、上司から見えやすい成果には高い評価がついたりする一方、目に見えない努力や成果は無視されるなど、多くのところで評価をめぐる不満が吹き出しています。
年齢給や勤続給など年功によって賃金があがる仕組みや住宅手当・家族手当などがなくなる
成果主義賃金では年齢給や勤続給など年齢や経験に応じて賃金があがる仕組みがなくなります。「定期昇給」と言っても、年に一回賃金を見直すだけです(日本IBMでは賃金規定から「昇給」という言葉が「給与調整」に書き換えられました)。実際には会社から高い評価を受けない限り賃上げはなくなり、低評価の場合は賃下げもあります。また、家族手当や住宅手当など成果・業績と関係なく支払われる属人的な手当も廃止しているところが少なくありません。
成果主義は雇用問題でもある
(1)成果主義の問題点は賃金だけにとどまりません。成果主義が導入されているところでは、低評価を受けた労働者に対する退職強要も頻繁におきるなど雇用の問題ともなります。日本IBMでは、「会社の新陳代謝を促す」といって、「毎年、会社の評価で下位10%の労働者を退職させる」という「ボトム10」という人事政策を公然とうたっています。そうした退職強要を制度化した「PIP(業務改善プログラム)」も外資系などを中心にひろがっています。PIPとは、低評価の労働者に対して、「学び直し(リ・スキリング)」を強要し、それでも成果がでなかったといって退職に追い込む手法です。
成果主義では企業の将来展望は生まれない
(1)成果主義が導入されると、経営者は自らの経営責任を棚にあげて労働者に責任転嫁するようになります。業績が少し悪くなると労働者に責任を転嫁する安易な発想となり、みずからはどうやって会社をよくするか考えないようになります。「麻薬」に侵されたように、賃下げと業績悪化の悪循環が繰り返されるようになります。賃金制度も改悪が繰り返されるようになります。(2)成果主義が導入されたところでは、会社や上司が労働者の生殺与奪の力をもつようになり労働者支配が強まります。労働者は会社全体の利益よりも自分がどう評価されるかを優先するようになり、業務上の問題点やミスを隠すようになります。その結果、重大な不具合や不良が可視化されないとか、ハラスメントが横行するなど、ブラック企業化してしまいます。(3)成果主義が導入されたところでは、助け合って仕事をする気風が薄れます。労働者は分断され、力をあわせて仕事をするというチームプレーの精神が希薄になります。技術・技能は承継されなくなり、みんなで知恵と力をあわせて仕事を工夫するということがなくなるため、「集団知」「経験知」も集積されなくなります。その結果、技術力、開発力も弱まります。電機をはじめ日本企業の国際競争力が弱まったのも、成果主義をはじめ労働者を使い捨てにする人事政策の結果といえます。